2階建てを6層に分けて考える
愛知県半田市内の障がい者福祉施設(生活支援・就労継続支援B型)の計画。
敷地は神社の背後にあり、木立のきれいな杜に近接する静かで特別な場所である。神社の反対側には民家が並び、西側には私鉄高架線路に走る特徴的な赤い電車を眺めることができる。豊かな周辺環境に囲まれた素晴らしい立地である。さらに、障がい者福祉施設という性質上、市街地とは離れた場所に建設されるケースが少なくなく、障がいを持った方を遠ざけるような既存の計画に問題意識持っていた施主である理事長は、駅から徒歩圏内でもあるこの土地を積極的に選ばれた。
しかしながら土地は不整形で、多少の高低差があり、建ぺい率も余裕がなかった。予算上、木造とせざるを得なかったが、準防火地域であるため開口部に制限があり、さらに法42条2項道路の行き止まりにしか面しておらず、道路斜線による高さの制約も非常に厳しかった。よって必要な諸室面積から規模を想定すると、配置できる位置と形状が限られた。
そんな難しい制約の中で、先に述べた豊かな周辺環境と積極的な関係を持ちつつ、多様な要望に対してもスムーズに応えるべく、私たちが提示したのは、建物ボリュームを断面的な層に分けて複雑な事柄を整理するというアイデアだった。2階建ての断面をさらに3つに分けることで6つの層が生まれ、それぞれ層に対して役割を与えて課題を解く手がかりとする、というものだ。
・第1層は、1階の床から1100mmまで。腰壁であり地窓の高さ。この高さは内装制限から外れるので自然木を張ることができる。車いすなどの衝突も考えられるため丈夫な壁紙を使ったりしている。地窓は地面と繋がることができる開口。1100mmまでの靴棚は使いやすい高さであり、キッチンのカウンター高さとも呼応する。
・第2層は、1100mm~2200mmまで。腰窓や出入口の高さ。ホワイトボードや掲示板が使いやすい高さである。優しい色の壁紙を使いたいという施主の要望を受け入れる層でもある。
・第3層は、2200mm~天井まで。欄間やハイサイドライトの高さ。排煙窓も設置される。隣の部屋との視線は遮りたいが雰囲気は感じていたいという要望にガラスの欄間で応えている。また、2層と3層のあいだをルーバー天井とすることで、天井裏に設置できないエアコンや換気扇、ダクトなどを通していく設備設置スペースとしても利用している。
・第4層は、2階の床から1100mmまで。腰壁であり手摺の高さ。第1層と同様に自然木を張っている。手摺の高さとも重なるため、意匠上すっきりとした印象を与えることができる。
・第5層は、2階の1100mm~2200mmまで。第2層と同様腰壁や出入口、優しい色の壁紙が配されている。
・第6層は、訓練作業室の吹抜であり、屋上である。吹抜の高窓(排煙窓)から屋上の活動の様子を見ることができる。吹抜は白く仕上げることで、自然光の拡散を意図している。屋上は良好な周辺環境を全方向に感じることができる場所であり、憩いや食事など積極的に利用される予定である。
このように6層全ての壁面に意味と役割を持たせ、展開図をスタディの材料として案を練り上げた。一見すると窓や色がバラバラと集まったような印象を与えるが、その背後には法的な制約や機能的な要望に誠実に答えようとする知性が埋め込まれている。それは利用者の方々ひとりひとり、自分にとって心地の良い居場所を見つけてほしいという願いとともにある。
建築概要
名称 | 六層二階建ての窓/リナスト障がい者福祉施設 |
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所在地 | 愛知県半田市 |
用途 | 障害者福祉サービス事業の用に供する施設 |
階数 | 地上2階 |
敷地面積 | 268.99㎡ |
建築面積 | 150.71㎡ (建蔽率56.03% 許容60%) |
延床面積 | 287.66㎡ (容積率106.94% 許容200%) |
竣工 | 2019年3月 |
構造・構法 | 木造在来工法 |
建築 | 市川大輔/adm |
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構造 | 小松宏年/小松宏年構造設計事務所 |
電気 | カトー設備設計 |
機械 | Reef設備設計 |
積算 | 二葉積算 名古屋支社 |
施工 | 株式会社大清工務店 |
竣工写真 | エスエス名古屋支店 |